[2007年7月10日 読売新聞]
参院選 新風景
接戦制した携帯メール
携帯電話のメールが威力を発揮した選挙戦がある。4月22日の長崎市長選だ。
選挙期間中に伊藤一長・前市長が射殺され、投票日3日前に補充立候補した元市職員の田上富久氏が伊藤氏の娘婿らを破った。
田上氏の知名度の低さを補うため、陣営幹部は約40人の連動員らに「持っている携帯でどんどんメールを出してくれ」と伝えた。
運動員が携帯電話などで友人らに送ったメールが次々転送された。電話と違い、仕事中の相手にも送ることができる利点があった。
メールは「田上富久が市長選に出馬します」に始まり、「田上氏への投票依頼をお願いします」、「『たうえ』にいれたとお伝え下さい 今、負けてます」と変えた。携帯電話に登録した約400人の友人らにメールを送ったり、4月のメール代や通話料がいつもの3倍の2万1000円を超えたりした運動員もいた。
田上市長自身は「3日間に長崎でメールがどれくらいあったのか、見てみたい気がする。支援の輪が短時間で綱の目のように広がった」と振り返る。伊藤氏の娘婿への「世襲批判」があったのに加え、メール戦術に支えられた田上氏は953票差で競り勝った。
選挙でのメール利用は法律上、グレーゾーンだ。公職選挙法は選挙用ビラなどを除き、「不特定」または「多数」への配布を禁止している。総務省は「メールを1人に送るのは問題ないが、転送によって多数の人に送れば、公選法に抵触する可能性がある」とする。こうした懸念もあり、投票日、田上陣営の運動員にはメールの消去を求める指令が出たという。
参院選でもメール戦術を駆使するケースがある。
6月30日、横浜市のホテルで女性タレントらがゲストの集会が開かれた。約300人の参加者の半数は20代、30代だ。終盤、舞台のスクリーンに携帯メールのアドレスが映し出された。
「ここにメールを送ってください」と神奈川選挙区に出馬する自民党の小林温参院議員が呼びかけた。同夜、これに応じてメールを送った参加者の携帯電話に「みなさんの友人で神奈川に住んでいる方に私を紹介するメールを送って下さい」との返信が届いた。
メールだけではない。会員同士が交流する「ソーシャル・ネットワーキング・サービス」(SNS)で、1000万人以上の会員を抱える国内最大手ミクシィ。民主党比例選候補予定者は「友達15万人できるかなキャンペーン実施中」と書き込んだ。自分のブログが各会員のページで紹介されることを期待してのことだ。15万人は、党内で言われている「比例選当選に必要な票数」と一致する。
インターネットを利用した議員活動をビジネスチャンスと見る企業も多い。動画などを利用した本格的なネット選挙が解禁になれば、大きな市場になると考えているからだ。IT(情報技術)関連会社「ライトアップ」(東京)は議員向けのブログ作成支援システムを売り出した。ブログを閲覧した人へのアンケートも可能で、集計機能もある。「演説の感想を集め、次の演説に生かすことが出来る」(同社担当者)という。
議員が政策を語る数分間の動画をネットで配信し、閲覧した人への賛否を問うシステムを作った映像配信会社「チャンネルN」(東京)は「政見放送の予行練習にもなる」と売り込みに躍起だ。
ネットが選挙戦を変えつつある。だが、公選法は選挙機関中の候補者のホームページ更新を認めていないなど、法制度は実態に追いついていない。「ネット選挙」の現状と課題を追う。