我が国のかたち―国家戦略としてのIT政策― 2006年3月3日
この原稿は2004年12月16日、中央大学大学院の経営革新講座における講演を要約したものです。講演内容全文と、その後に行われたパネルディスカッションは『経営革新vol.2』(中央大学出版部・2006年1月31日発行)をご覧下さい。
1 国家戦略としてのIT
我々政府与党はe-Japan戦略を組み立て、今はそのラストスパートの時期を迎えています。今後、この国がIT・ICTを軸にどういう方向に向かっていくべきかについてお話したいと思います。
産業革命が人間の肉体労働を代替した一方、IT革命はまだ途中の段階ですが、人間の知的活動を保管・向上し、時間と距離の超越を実現しました。グローバルな規模での情報流通が極めて自由かつ容易になり、知的活動が刺激され、新たな価値創造の可能性が急速に高まっています。IT革命により、パラダイムシフトが現実に起こりつつあるのです。
ハーバード大学のジョセフ・ナイ教授は、ITによって幅広く瞬時に伝えられるようになった情報は一つの「力」であり、「旧来型の軍事力・経済力」と比較してもIT革命の進展によって「ソフトパワー」の重要性が急速に高まっていると言っております。誰でも国境を越えて容易にネットワークを形成できるため、従来国家が果たしてきた役割が多国籍企業やNGOなどに置き換えられる可能性も出てきています。国家とは何か、国としてソフトパワーをどう位置づけてどう活用していくかは、これからの大きな課題になるでしょう。
ITはあくまでも道具であり、目的ではありません。この道具の活用価値を高めるために、(1)情報の自由かつ円滑な流通の確保、(2)情報を発信・アクセスする権利の保障、(3)安全性と信頼性の確保、(4)各国の文化的・言語的対応性の尊重、(5)グローバルな武器となり得るITを国際的連携の中でどう進めていくか、という5つの基本理念を考えるべきです。同時に、東京大学の西垣先生が言うように、ITによって情報は本当にそのまま伝達できるのか、情報量が増えれば知識は本当に増すのか、情報量が増えただけでは質的には貧困になることが起き得るのではないか、という疑問もIT国家の形成の過程で絶えず問いかけていかなければなりません。
では、どういうIT国家を形成すべきでしょうか。今、構造改革など制度全般の抜本的な見直しを進めていますが、ITをしっかりと捉え、ITを基軸にして国の制度を見直す必要があります。また、少子高齢化により労働人口が減っていく中で経済成長を維持していくためには、ITの活用が大きなキーになります。司法・立法・行政にどのような可能性が生まれるのか考えていかなければなりません。
政府のe-Japan戦略は、自民党e-Japan重点計画特命委員会(現u-Japan特命委員会)の申し入れを生かして進んでいます。委員会では縦割り構造を見直しつつ、国家としての一つの方向性を見出すべく議論しています。なお、IT分野は年長議員ではわからない点もあるため、この委員会は我々若手が存在意義を発揮する格好の場でもあります。
2 国際競争におけるITの方向性
アメリカの経済が現在上向いているのは、1985年に「ヤング・レポート」を発表し、国の競争力を上げる取り組みの中心の1つにITを置いたことに端を発しています。日本の国際競争力も絶えず強化を図らなければなりません。
日本企業はハードからソフトウェア、サービスなど全ての分野を満遍なく触っておりますが、実はそのことが「選択と集中」という意味では、競争力の上がらない一因となっています。他の国では「選択と集中」が非常に活発に行われているので、相対的に日本の競争力が落ちています。日本が競争力を持っている分野を強化していくことが鍵になるでしょう。
これからはマイクロ・コンピューター(組み込みOS)が我が国にとっての1つの競争力の源泉になると思います。例えば情報家電や車、ITSの技術は組み込みコンピューターに支えられていますが、この分野は他国に比べて高い優位性を持っています。この分野の競争力を上げるために政府がどのような施策を採用するか、そしてその枠内で各企業がどのように合従連衡しながら技術力を高めていくかが大変重要になってきます。選択と集中の繰り返しによって国際競争に勝ち抜いていくことは一つの方向だと思います。
技術流出の防止を徹底するための政策を検討しています。かつては空洞化が叫ばれましたが、今は戦略的分野では国内回帰の流れもあります。日本は川上から川下まで様々な分野で競争力を保有しており、この構造自体が結果的に技術流出に繋がる場合もあります。韓国のように川上から川下まで垂直統合を進めるという戦略もあります。また、オペレーションを重視し、日本の強みである摺り合わせの部分を核にして戦略分野にアーキテクチャーを適用できるかが、日本が今後世界で競争力を保っていく上で大変重要だと思います。
また、電子政府・電子自治体には政府の効率化という目的もありますが、国民の利便性の向上も重要な目的です。ITを使っていかに国民の満足度を高めていくかが、政府や自治体にも求められています。遅れているこの部分を進めていきたいと思っております。
3 新たな日本モデルの提案
ITを使っていかに新しい日本のモデルを提案していけるかが、一番大きな課題です。技術の優位性を保ちながら世界に発信していくことも一つの方向性ですが、標準化も含めて制度設計の分野で世界に貢献していくことも大きな方向性です。そして、その共通の制度設計の中に、最初に述べた基本理念をしっかりと形作っていくことも大事です。
日本が先導しているユビキタスを現有する技術的優位性の中でどう実現していけるか。そのために工程表を作って一つ一つ忠実に進めていくことを政治に与えられた一つの目標と位置づけ、IT政策を作らせて頂いております。
