[確定拠出年金の今後を米国401(k)から展望する (3)]
これまで、米国の401(k)プランの優れた面ばかりを強調しましたが、現地ではやはりいろいろな問題点が指摘されていました。そのひとつが制度の複雑さと管理・報告事務の煩雑さです。日本の確定拠出年金に対しては、融通のきかなさゆえに「使い勝手が悪い」との批判があります。しかし、米国の運営現場で聞いた苦労話を思い出すにつけ、逆説的ではありますが、特に中小企業への制度普及にこの窮屈さが意外と貢献するのではとも感じています。
◆「制度の柔軟性」と「企業の事務負担」は表裏一体
すでにご紹介しましたが、米国の401(k)プランでは、掛金拠出や制度参加の公平性を確保するため、高給従業員と非高給従業員の間で「非差別テスト」なるものが存在します。しかし、401(k)の税制適格性(税の控除を受けるための資格要件)を保持するため、企業がクリアしなければならないテストはこれだけに留まりません。例えば、日本でも実現の要望がある「経済的困窮時の緊急引出し」には、やはりそれ専用の要件テストが設けられています。さらに、401(k)では、「積立金を担保にした社内融資」や「非課税限度額を超える拠出」も認められていますが、それと引き換えに企業に対して課税・非課税の区分を始めとする厳密な管理を義務づけています。結局、利便性を認めれば認めるほどその濫用を防ぐルールを整備しなければならず、規制が複雑化したのです。
その結果、企業側の事務負担は増大し、中小企業による導入を阻む要因ともなりました。これに対処するため、1997年からはルールの簡素化や整理が図られました。例えば、「セーフ・ハーバー・ルール」と言われる「この条件を満たせばテストをクリアしたものとみなす」というシンプルな基準を設けたりしました。さらに注目すべきは、年収5000ドル以上の従業員が100人以下という中小企業向けに、ルールを簡素化したシンプルな制度を新設したことです。
◆「小さく生んで大きく育てる」
日本は、確定拠出年金を「小さく生んで大きく育てる」としています。「小さく」とは拠出限度額のことを指すように受け止められていますが、実は「コンパクト」という意味がこめられていると思います。つまり、中途引出や税引後拠出のような例外を極力排し、シンプルでスリムな姿でスタートさせたのです。日本の確定拠出年金は、米国の401(k)を研究し尽くして作られました。さまざまなニーズへの対応が制度の複雑化を招き、かえって普及を妨げるという教訓もすでに得ているわけです。
まして、確定拠出年金では、加入者自身に制度内容を理解してもらう必要があります。説明量が多いとそれだけで拒否反応が返ってくるのは、どこの国でも同じです。米国でも、Yes/No式チェックシートなど「薄いリーフレット作り」のための工夫をずいぶん目にしました。
その意味で「老後資産の形成」に徹した日本の制度は、そのコンパクトさゆえに企業が管理しやすく加入者も理解しやすい仕組みです。中小企業にも利用しやすい簡素さは評価に値すると考えます。事実、昨年末時点の導入状況では、導入企業全体の233社のうち、100人未満の企業が80社、300人未満になると141社と、実に全体の6割以上が中小企業です。もちろん、今後とも各方面の要望に添った改良を重ねつつ、日本国民に身近な制度として「大きく」育てる努力を惜しみなく続けるつもりです。