[第165回 参議院 国際問題に関する調査会 2006年11月15日]
○小林温君
お二人の参考人から大変ためになるお話を聞かせていただきました。
中国の対日政策が対日重視の姿勢であるということ、これは胡錦濤の政権の中でもそういう方向に進んでいるということでございました。唐参考人からは、健全なナショナリズムの育成のためにメディア、政治家、外交担当者の役割が重要だという御提案もいただきましたが、我々も含めて、どちらかというと靖国の問題で、この二年ほどは日中関係の全体像がどこか霧の中にあって見えない、うまくよく見えないような環境の中にあったのかなというふうにも思いますし、その中で安倍新総理が中国訪問も実現をして、今日お二人からもお話をいただいたように、中国の対日政策が現在どうなっているのか、これからどういう方向に行くかということをこれから冷静に我々も見極めていくという、そういうことができる環境が整ってきたのではないかというふうに思った次第でございます。
二つほど質問をさせていただきたいと思います。
一つは、北朝鮮の問題というのは我が国にとっても大変今大きな目の前にあるものでございますが、お二人がお話をされた、あるいは既にいただいている資料の中でも触れられていることでございますが、北朝鮮に対する中国の影響力というものが今どの程度のものなのか。六者協議への北朝鮮の復帰、これは一部では例えば中国がその仲介役としての役割を果たしたということが言われてもおりますが、一方で唐家センさんがピョンヤンに行ったときになかなか金正日総書記に会えずに、どうも今の中朝関係というのはかつてのような状況ではないのではないかと。六者協議への復帰に向けても、どちらかというとアメリカがそのリードをしているのではないかというような話も関係者からもお聞きをしました。
お二人とも、中国にとって北朝鮮は決して崩壊というシナリオがあってはならないという見方をされているというふうに思いますが、このシナリオの中で、例えば興梠参考人は、親米政権の誕生に中国が危機感を持っているということもお触れでございますが、中国から見た場合に幾つかシナリオがあるとして、金正日体制のままでの例えば核の放棄なり国際社会への復帰というシナリオがあるのか。あるいは、レジームチェンジがあって、その上での体制の保証が中国から見た場合も許容される範囲になっているのか。あるいは、もっと違った観点で中国は北朝鮮の今後の行くべき方向というのを考えているかということについてお考えをお伺いしたいと思います。
それからもう一つは、その平和的台頭という外交戦略の中で、中国が協力による利益が大きいということでこういう外交戦略を取っているということは私も分かるんですが、私、昨年来、アフリカとか中東、中南米という資源国に訪問をさせていただいて、我が国とそれぞれの資源国との将来的な資源の確保のための交渉などもしてまいりました。そうすると、どこに行っても必ずぶつかるのがやはり中国のプレゼンスでございまして、中国も当然更に増える人口、経済発展をにらんで資源の確保、これはある意味でいうとなりふり構わずという表現もあるんですが、と同時に、極めて戦略的に世界各地でこの資源の確保、石油やガスのみならず、例えば金属や希少資源といったところまで手を出しているわけです。
アフリカに行くと、どこにでも中国の大使館もございますし、援助でいろんなものをつくっております。中南米に行っても、資源国には中国の首脳が必ず訪問した跡があるわけですね。ですから、日本にとってもこの資源エネルギー問題、極めて重要な中で、どうしても中国と様々な形でバッティングしてしまうと。近隣諸国として向き合う中での経済関係の調整というのは可能なのかなと思いますが、この資源をめぐる世界の局所局所でその争奪戦というものが果たしてこれからの日中関係にどういう影響を与えるんだろうかということを私、非常に懸念を持ちました。
具体的に例を言うと、例えばロシアでもパイプラインも日本に来ない分、中国に行くというようなことが言われておりますし、サハリンの権益も日本にLNGで持ってこれない代わりにパイプラインで中国に行くんじゃないかと、イランに持っていたアザデガンの利権も日本がもたもたしている間にどっかに行ってしまって、これも中国に行くんではないかということがございます。
こういうことも踏まえた上での日中の、特に資源外交をめぐる関係というのがどういうふうになっていくのかということと当然同じことが日本以外の国とも実は起きているわけでございます。例えば、インドでありますとか、アメリカもそうでありますし、ヨーロッパの国々と中国が様々な形で資源をめぐってバッティングしているというのも見聞きするところでありますが、このことが、平和的台頭ということで軍事的なプレゼンスは大きくしない中で経済的な活動を進めている中国の落とし穴にもなるのではないかという気が私はしているんですけれども、この辺についてもお二方から御意見をいただければと思います。
○会長(田中直紀君)
では、興梠参考人の方からお願いします。
○参考人(興梠一郎君)
ありがとうございます。
二つあると思うんですけれども、まず北朝鮮に対する中国の影響力ということなんですけれども、やはりミサイル事件ですね、あの辺りからずっと見ていますと、いろんな情報が出ていますが、基本的には、やはり中国というのは北朝鮮に影響力、例えば食料とか石油であるとか、そういった影響力を持っているけれども、その最後のカードを使ってしまうと圧倒的な影響力がなくなってしまうので使えないと。だから、最近、中国の国内のいろんな声を聞いていますと、その足下を見られちゃっているということをよく言うんですね。
だから、中国のボトムラインというか、結局は北朝鮮を手放したくないし、崩壊に追い込みたくないんだろうと、だから最後は味方してくれるんだろうと、例えば制裁に関しても軟らかくしてくれるんだろうとか、そういった足下を見られているという言い方を時々するんですね。見られているけれども、その最後の一線は越えられないと。ですから、影響力は行使すればあるんだけれども、使えない影響力という部分があるんじゃないかと。
その最終的な問題というのは、崩壊とか難民問題とかいろいろ言われていますけれども、一つ流動的な要因としては、北朝鮮がやっぱり自分の主体的な発想で国家づくりをやっていて、どこの国にも依存したくないという哲学を持っているということですよね。ですから、かつての中朝の同盟とは違ったことになっていると。これは先ほど申しました、韓国と関係を正常化した時点で北朝鮮はやっぱり裏切られたような感じを持っていたわけですし、だったら自分でやっていこうと。どんどん中国は、アメリカと関係が良くなっていくに従って取り残されたような感じがしてきたと。いわゆる冷戦の残像物として残っていったと。じゃ、自分で自分を守ろうということになると、結局は核を持つとか、そういう問題になってくる。
したがって、中国が国益を考えて経済発展を前面に据えた結果、そういった関係が変化してきている。しかし、北朝鮮も、やっぱり中国をカードとして使えるわけですから、やっぱり丸裸でアメリカと向き合っていちゃこれはもうどうしようもないので、中国とかロシアとか、そういったものを使いながら対抗していくと。だから、両者のそういった思惑の違いと一致というのがあるので、それが交互に出てくると思うんですね。
ですから、影響力はあるけれども使えないと、対北朝鮮に対しては使えないと。しかし、一定の範囲内で、例えば北朝鮮の生存空間を確保してあげるとか制裁をちょっと緩めてあげるとか、その辺で恩を売るということはできるわけですね。中国は、基本的には、先ほど申しましたように、アメリカとの関係というのを最重要視していて、台頭するための最大の課題だと思っていますから、今後の問題というのは対米関係と対北朝鮮の問題をどう調整するかということで、それはまだ結論が出ていないと思うんです。
一方では、どんどん北朝鮮が例えばアメリカと関係を深めていって、核を持った朝鮮半島の統一というのが最終的にもしできて、それがなおかつアメリカと近いというようなことになっていくと困ってしまうと。それから、最低限ベトナムぐらいで、アメリカとも関係はいいけれども中国とも関係は維持するみたいな感じでソフトランディングさせてと思っているんではないかと。まあちょっと怖がっているのは、インドみたいになった場合はちょっと手ごわいなみたいに認識している感じがします。ですから、影響力はあるといえばありますし、使えないという面もある。
今後のシナリオを中国はどう見ているかというと、一つではないような気がしますね。いろんな意見が出ていますね。
例えば、軍関係の人というのは北朝鮮、戦略的な価値というのを非常に重視していますし、言わば緩衝地帯と、いわゆるアメリカの影響力を食い止める意味では北朝鮮、非常に重要。あと中国は、先ほど申しました多国間の外交で力を見せ付けると。
多国間がステージだと、自分が華やかに活躍するステージだと。そのステージがなくなっちゃうというのもありますよね。中国をだれも必要としなくなると、これは戦略的価値が下がる。
ですから、シナリオとしては、やはり今のレジームで改革・開放をやらせたいわけですね。ですから、金正日さんが中国に来たたびにそういったところを連れて回って、改革っていいんだよと、あなたの政権は続くんだよというようなことを説得したりとかしていると思うんですね。それは中国の国内報道なんかでも見ていても、その辺が非常に分かる。中国風モデルというのを見てくれと。ところが、これはまた北朝鮮はどう思っているかというのは別で、それは中国の力は必要だけれども、全部マーケットが中国製品で占領されちゃ困ると。だから、適当に他外国、アメリカ、日本であるとか欧米とか、そういった資本も入れたいというのもあると思うんです。
次に、平和的台頭ですが、やっぱりアフリカ、中南米というのは一つのキーになっていて、アメリカも非常に気にしていますよね。特に中南米の場合は自分の裏庭ですから、中国は特に反米意識の強いベネズエラとかそういったところと資源関係を持ったり、いわゆるアメリカのすき間に入っていっている感じがする。例えば、アフリカなんかも、最近大規模なサミットは中国がやりましたけれども、でも対台湾というのもありますが、やはり欧米諸国が人権であるとかいろんな面で、内戦とか、忌避していた、回避していたアフリカへの影響力というもの、そのすき間にぱっと入っていくと。そこにまた資源とマーケットという交換条件が成立するということで、これは皆、皆が無視している間にばっと入っていってプレゼンスを高めた。
今後どうなるか。ある意味では、先ほど落とし穴とおっしゃいましたが、私も正にそう思っていまして、実は中国が台頭するようになる一番大きな問題というのは発展途上国との問題なんですね。自分が作っている製品が実は相手とバッティングするという問題がある。これはむしろ先進国とはないわけですよ。ですから、マーケットを獲得すると。一方的に資源買うわけじゃないですから、自分のものを売らなきゃいけない。そうすると、中国製品と相手方のものがバッティングしてしまう。例えば、EUとの間では靴をめぐって問題があります。それから、スペイン、中国人の靴の店が焼かれたなんということもありましたし、これは今、中国というのは台頭する過程で実は貿易摩擦とか発展途上国ともそういうものを抱えていますし、非常に大きな問題。先進国とは、今申し上げましたように、資源の問題。例えば、アフリカの比率をどんどん上げていきたい、資源の輸入元として。これは当然アメリカも同じ考え持っているわけですから、今後どうするかと。
そういった広いスパンで見ると、日中の関係というのは、そういった世界的な中国のいろんな矛盾とか、台頭をめぐる矛盾とか、そういったものが一つの、一つのパターンといいますか、そういったようなものは見えますが、今後、中国が台頭する過程では、当然、資源とマーケットという問題が出てくるであろうと。それを克服ができるかどうかという問題はこれからであると。
もう一つは、中国自身が資源の需要を増やし続けられるかどうか。環境問題もありますし、経済成長のパターンもあります。これも、今日はちょっと本題からずれますのでやめますが、それも、先ほど申しましたように、まだクエスチョンであるということで私の回答を終わりたいと思います。ありがとうございました。
○会長(田中直紀君)
では、唐参考人。
○参考人(唐亮君)
ありがとうございます。
まず、小林先生と親交を温めたいと思います。一度、小林先生が、お忘れなったと思いますが、一九八九年後半から九〇年辺りで福島に一緒に旅行させていただくことありまして、なおかつ小林先生、当時の立場表明ですね、地元で大学つくりましたら私は大学の教員になろうと。今でも覚えていますが、途中で議員になられまして、失望ではありません、おめでとうと非常に言いたいと思います。
二つ質問をちょうだいいたしまして、興梠先生の方が既に答えたと思いますが、まず中国の北朝鮮に対する影響力はどの程度のものだと。それが、恐らく各国と比べれば、やっぱり中国と北朝鮮は伝統的な関係があって、なおかつ経済支援も一番力を入れているので、ほかの国と比べれば割合にある方ではないかと思います。
ただ、私は、レジュメにも書きましたが、限界が非常に大きいと。限界というのは、さっき興梠先生がおっしゃったとおりで、北朝鮮はまず主権国家なんですよね。主体思想を持って、恐らく中朝同盟関係がいいときもその主体思想は絶対譲れないという国だということはまず一点目。
二点目は、どこに対する影響力の問題と思うんですが、今、六か国協議で北朝鮮のミサイル開発、核兵器を断念させるということに関しては、私、思うのは、その当事者は米朝なんですね。中国の限界というのは、主権国家の北朝鮮はこの問題に関して中国の説得あるいは圧力を受け入れるか受け入れないかは、北朝鮮なりの損得勘定あるんですよね。この今の段階ですね、この核兵器、ミサイルの問題は、北朝鮮の金正日体制の核心的な利益にかかわる部分なんですよね。だから、それ利益計算をして自分の体制の存続、あるいは譲歩によって得られる利益が多いときだけ多分恐らく中国の説得あるいは圧力を受け入れるではないかと。それ以外、多分幾ら中国は説得しても圧力掛けても応じない可能性が高いではないかと。
もう一点目は、実はもう一つの限界というのは、この六か国協議では主な当事者は、もう一人の当事者、アメリカなんですよね。アメリカの出方によって北朝鮮の出方もまた変わってくるわけで、だからそういう意味ではアメリカの出方によって北朝鮮、また中国の説得あるいは圧力を受け入れるか受け入れないか、その中での中国の影響力を見ておくべきではないかと思います。
将来のシナリオですね。これも興梠先生が既におっしゃいました、中国にとってはベストのシナリオは、この大量破壊兵器の問題が平和的に解決すると。それで、日朝、米朝関係が正常化。なおかつ、いいシナリオというのは、その中で北朝鮮は、まあ中国モデルといったらあのプライドが高い国は多分受け付けないという可能性あるんですが、しかし望ましい方向へ変わっていくと。その場合は、中国あるいは近隣諸国がサポートしていくというのは一番ベストのシナリオではないかと。そして、今の中国の基本的な政策は、そのシナリオが実現するために努力していこうではないかと。当事者にも呼び掛けているんですね。
ただ、問題は、人事を尽くして天命を待つということで、ここで結果については中国が決められるものではないと。米朝の役割は一番大きいと。なおかつ、日本と韓国も非常に重大の役割を担っていると。この軟着陸するためには、やっぱり北朝鮮以外の五か国は違いを乗り越えて、協調活動を取って柔軟に対応していくことが重要ではないかと。一番のポイントは、私はアメリカだと思います。
また、時間が超過しますが、中国の平和的な台頭について、私、思うのは、やっぱり新興の大国が台頭する中で必ず既存の国際秩序に挑戦するんだと、そうすると混乱の原因だと、そういう国際政治の理論があって、中国もそういうふうにとらえている意見が非常に多いんですよね。それを意識して、中国の平和台頭というのは、あれは発展はしますが、しかし発展する過程で既存の国際秩序を受け入れる形でやっていきますから、だからその台頭は平和的な台頭だと。特に、アメリカに向けて発しているメッセージだと私は思います。
このアフリカの資源のことについて、さっき小林先生が問題提起をされたんですが、私が思うには、今の議論は多分中国の対アフリカの援助政策と関係していると思うんですが、条件を付けないという言葉を中国は使っているんですよね。ここが明らかに世界銀行あるいは主要国の援助方針とは違うところがあります。
それで、中国はアフリカに対して資源の獲得にも力を入れていることもあって、大いに批判を受けている問題だと思いますが、ただ私が思うには、その中国の政府の主張を弁護するつもり全然ないんですが、結果として弁護になってしまうかもしれないんですが、グッドガバナンスという条件を世界銀行等付けているんですよね。
これ、私がその資料を持っているんですが、説明責任とか、それが透明性の問題とか法の支配の枠組みとか、考えてみればこのような条件をそろえる途上国はそもそも援助はそれほど要らない国じゃないかと、まあ要らないというよりは要するにかなり相当いい国なんですよね。そこが、中国自身も発展国、途上国の経験あるわけですから、やっぱりこういう目標は非常に大事だと。どうやって目標を到達していくかはプロセスがあるんですよね。この開発が進む中で、国民の意識も変わるし、指導者も変わらざるを得ない。その中で多分このような目標が到達されると思います。だから、そういう意味では、ある意味では先進国あるいは国連の援助方式の代わりに新しいオプションを提示する意味では、私はしばらく時間を見て、経過を見た方がいいではないかと思います。実は、それに付け加えて言うと、実はアメリカの援助方式が、じゃ、果たして有効に機能するかどうかという問題も多分検証する必要あるではないかと思います。