[第162回 参議院 国際問題に関する調査会 2005年3月3日]
○小林温君
自民党の小林温でございます。
まず、山影参考人にお伺いしたいんですが、最初の「経緯」というところで、東アジアの共同体の核にはASEANだというところから今日の御説明をいただいたわけですが、例えばEUというのは先進国、ある程度経済レベルの同じ国が長い時間を掛けて今の共同体をつくってきたと。それから、アメリカ、NAFTAから今発展しているわけですが、ではそのアメリカという中心国が、カナダ、メキシコ、あるいはその周辺国という形で一つの核に、コアになるリーダーがいてその経済共同体を今つくろうとしているというのと比べた場合に、今のアジアの置かれている状態って、確かにASEANはその地域的な統合という意味では、特に経済面において先行はしている、歴史はあるというのは間違いないわけですけれども、これがASEANプラス3、あるいはその共同体ということを考えていったときに、ASEANが先行しているということがどういう意味を持つかということ、今日お話の中でも触れていただいたと思います、そこをもう少し確認をさせていただきたいというふうに思います。
それで、経済共同体をつくるときに、やはり私は、その質をどのように担保していくのかということが、経済統合の質ですね、非常に大事な視点だというふうに思います。ですから、現実的には東アジアに存在する唯一の先進国としての日本の役割というのはその部分で大変重要だというふうに思うんですが、一方、今、例えば中国のASEANに対するアプローチについても、先ほど先生お触れになりましたが、かなり時間的に急ぎながらいろんなアプローチをして、ASEANとの経済統合の中での主導権を、行く行くはこれは東アジアの経済統合の主導権ということにもつながると思うんですが、日本に先んじてという姿勢が非常に強く見られるというふうに思います。
この点について私の持論は、やっぱり日韓というのは、後ほど朴参考人にもお聞きしたいと思うんですが、東アジア全体の経済共同体の質を担保するという意味で、そのモデルとしての役割が日韓のFTAというのにあると。そのためには日韓どういう姿勢で臨むべきかということがあるんですが、その前に山影参考人には、つまり質の担保の問題で、日本のアプローチと中国のアプローチ、そしてその対象となるASEANがどういう方向で進むべきかと。特に日本は質の高い経済共同体の創出に向けて果たしてどういうスタンスで臨むべきかということについてお伺いをしたいというふうに思います。
朴参考人には、今の質問でございますが、先ほど日韓のFTAが進まないということについてお触れになられました。農業分野が一つ、ノリを中心にネックになっているというのもまたありますし、先ほど朴参考人自身がお触れになったように、今の日韓の産業構造を見たときに、確かに日本製品が急速に韓国に流入してしまうという部分も懸念としては存在しているというのも事実だと思います。ただし、日韓が東アジアの経済統合の中、特に中国に先んじてそのモデルを提示するということの意味というのは私は非常に重要だというふうに思いますし、そのためには、正に日韓が胸襟を開いてお互いに譲ることが結果的に、将来的には東アジアの経済統合の質を高めるということに重要だと自覚を持つことが大事なんじゃないかというふうに思いますが、その点について少しお考えをいただければと思います。
それから、北朝鮮の問題について続いてお伺いしたいんですが、日本は総理や政府が対話と言っていますので、我々、例えば議会や党としてはそのもう一方のカードである圧力というのを主張するというのは、対話と圧力というもののバランスを考えるという意味では、役割分担として、ある意味では我々は、意識しているかしていないかは別にしても、そういう役割を担っているのかなというふうに思うわけです。
そういう中で、送金と入港を止めると、それが非常に北朝鮮にいる、例えば日本人妻として行かれた方や帰還事業の中で行かれた方々に対して大きな影響を与えるということなんですが、例えばもう一つの経済制裁のカードであります貿易の停止ということ、アサリの問題にもお触れいただきましたけれども、これはそういう意味でいうと、多分御懸念の北朝鮮にいる日本に関係ある人に対する影響というものは比較的軽微ではないかというふうに私は思うわけでございます。
そもそも改正油濁法というのは、別にこれは北朝鮮を対象にしているわけじゃなくて、現実的にはロシアの船や中国の船も昨日の施行を受けて保険に入らなきゃならないということで実はあたふたしているところもあると。ただ、現実の問題として北朝鮮の船籍の加入率が二・五%だというのは、今まで国際ルールを北朝鮮の船が守ってこなかったということで、正にこれから国際社会の中に北朝鮮に仲間入りをしてもらうためにはこういうルールを一つ一つクリアしていただくということも必要なのかなというふうに私は思うわけです。
それで、もう一つの御質問は圧力の問題でございます。多分日本のできる圧力のカードというのはもう限られていて、今であれば入港禁止と貿易、送金の停止と、それから、これから人権法ができたときにこれも圧力のカードになるかもしれませんけれども、例えばアメリカと比べたときの制裁の度合いなんというのはたかが知れているんですね。アメリカはイラクに大量破壊兵器があるかもしれないということで攻撃を仕掛けた国でございます。ですから、ある意味でいうと、我が国が経済制裁も含めたマイルドな圧力のカードを北朝鮮に突き付けるということは、北朝鮮にとっては、アメリカはイラクで忙しいところもありますから、まだ幸運な状況にあるんじゃないかというふうに私は思いますけれども、その点についてはどういうふうにお考えですか。
○参考人(山影進君)
どうもありがとうございます。
先ほど佐藤先生が東アジア諸国の経済規模を御紹介くださったように、ASEANの経済統合あるいは共同体化が進んでいるといっても、経済規模にしてみると、ASEANすべてを合わせても例えば日本の経済規模の八分の一程度だと思います。ですから、東アジアをトータルに見た場合に、日本、中国、そして韓国、東北アジア三か国のウエートが圧倒的だというのはこれは全くそのとおりだと思います。
問題は、この東北アジア三か国がなかなか三か国だけでうまく進まないときにどうすればいいのかというと、ASEANを間にかませると東アジア全体、十三か国全体としてうまくいくではないかと。やはり遠い将来には台湾をどうやってこれに組み込むのか、あるいは北朝鮮がどの段階になったならば入れるのかということを長期的には念頭に置きながら進めていくべきものだろうというふうに思います。そういう意味で、やはり日本や中国が関与したFTAあるいはASEANとの経済連携がどういうふうに質の高いものになるのかというのは、おっしゃるとおり非常に重要なポイントだと思います。
中国・ASEANの動きに比べて日本はASEANの動きが遅い、に見えると、確かにそうだと思います。ただ、日本が第一歩が後れたというよりは、先ほど言いましたように第一歩は日本の方が早く決断した、中国は地域協力に慎重だったわけですが、やはりああいう国家体制ですから、一度指導者が決断を下すとその後の動きは非常に速いと。それに対してやっぱり日本側は、その辺は非常に、民主化がもちろん進んでいるわけですから国内合意というのに物すごくコスト、時間的なコストそれから資源的なコストも掛かるという、これはもう政治体制の差からやむを得ないことではないかと思います。
それからもう一つ、中国もASEANも基本的に合意をしてから始めるのではなくて、合意は後なんですね、始めましょうということで歩き出してしまうと。そういう意味では、FTAに向かう第一歩というのが非常に踏み出しやすい。日本は全部決まらないとその一歩を踏み出さないという、これも特徴でして、その代わり合意があればそれを非常に忠実に実行するという意味では、物すごく信頼性が高い僕は国だと思います。
正直言って、中国・ASEANと同じ歩調にいくためには、日本政府というか、行政府だけではなくて立法府も少しいい加減になって取りあえず第一歩やってみると。あとは成り行き任せと言うと言い方は悪いんですが、次の一歩をどういう方向に踏み出すのかというときに、常に日本の全体的な国益を見定めながら徐々に徐々にそっちの方に歩いていくと。うまくいかなければ半年ぐらい足踏みするという。
もう少し硬い表現をすると、今、日本もASEANをそれやろうとしているんですが、枠組み協定を作って、総論賛成のところで土俵にのってしまうと。これは京都議定書を作った地球温暖化の場合もそうですが、取りあえずみんなが賛成できる総論でみんなが土俵にのると。その後、いろいろな問題を調整していきましょうというやり方を始めようとしていますので、日本がASEAN各国あるいはASEAN全体として経済連携を進め、それと同時に東アジア共同体を進めるのは、多分、ミャンマーの民主化を待ってとか、北朝鮮のソフトランディングを待ってからとか、あるいは中国が平和演変を済ませてからとか、そういう、条件が整ってから一歩踏み出すのではなくて、将来、条件が日本にとって望ましい方向で改善するように東アジアの地域を全体に持っていくように、取りあえず第一歩を踏み出すというのが今必要なのではないかというふうに私は考えております。
○参考人(朴一君)
まず、日韓のFTAについてなんですけれども、やはり最初に日本が韓国との関係、FTAを結ぼうとしたのは、先生がおっしゃられたように、やはり中国は、WTOへの加盟したときに中国が約束した例えば開放の実施とか、ルールをどれほど守ってくれるのかというかなり疑念があるわけですよね。恐らく、私も中国に何度も行きましたけれども、中国へ行ったら日本製品のコピーだらけで、ほとんどそういう国際ルールが十分に守られていないという。その意味で、例えば韓国なんかでは、外国企業に対して投資前から内国民待遇を約束するというような、先進国水準の高いレベルの投資協定を結ぶというような形で、ある意味のアジアにおけるFTAの模範みたいなのを日韓で作ろうというのが一つの目的だと思います。
ただ、だからといって、韓国が全く日本に対して対等な立場でやろうとしているのかというと、交渉を見ていると、どうもやっぱり、例えば日本の一人当たりGNPが三万三千で韓国が大体一万二千ぐらいだと思うんですけれども、やはりそういった経済力格差への配慮をある部分で日本に対して期待している部分もあると。
だから、今日私が申し上げた、例えば漁業面で韓国がかなり不満やいら立ちを見せているんですが、やはり日本もかなりアジアの中で大きな経済力を持っておりますから、やはり韓国の、一つの日韓のFTAモデルを作ってそこからそれを広げていくという意味では、先生がおっしゃったように、譲るべきところは譲るというような形でFTAの交渉を前に進めていった方がいいんじゃないかと。全く先生と私は一緒の考えでございます、その意味では。
こういったもの、特に送金停止というのが北朝鮮にいる子供たちであるとか、特に帰国した元在日朝鮮人あるいはその日本人妻たちに悪影響を及ぼす可能性がある一方、貿易の停止というのはそういう可能性はないんじゃないかとおっしゃられたんですけれども、私は、貿易停止の面でいえば、逆に日朝貿易というのがこれだけ減少して、減退している中で、すなわち北朝鮮において日本の貿易が占める比率というのは八%程度なんですね、一割にない。そういう意味で、貿易の全面停止をしたところでほとんど北朝鮮には打撃にならないということをこれは申し上げたんですね。だから、そういう意味で、北朝鮮に対する経済制裁のカードですね、何が有効なのかというのは非常にいろいろ検討していかなきゃいけないんですけれども。
やはり私は、先ほど申し上げましたが、金大中大統領が太陽政策というのを最初に表明したときに、テレビでその太陽政策とは何かという説明を金大中大統領がやられたんですけれども、そこでイソップ物語の「北風と太陽」というのを出して、私も「北風と太陽」というのを本屋に行って買ってきたんですけれども、要するに、北風さんと太陽さんが、コートを着ている人に、どちらが早くコートを脱がせられるかという競争したときに、結局、北風は冷たい風をびゅうびゅうするんですが、旅人は脱がないと。太陽をぽかぽか当てるとコートを脱いだと。どうすれば北朝鮮のかぶっている重い核とかミサイルのよろいを脱がすことができるのかと。これは北風じゃないんだと、制裁じゃないんだと、対話であるということで金大統領はそういう考え方を表明したと思うんですけれども。
やはり、日本はこれまで圧力と対話という二つの両輪で来たんですけれども、これが、その対話が止まって圧力だけになるときが非常に私は怖いんですよね。その二つがどこまで続けていくことができるのか。この対話というのも、実は小泉首相が北朝鮮に行って直接金正日さんと対話するだけではありませんから、外務省の方が極秘に向こうに行って向こうの外務省と極秘交渉を進めることもできますし、いろんなやり方があると思うんですけれども、そういう意味でのやはり対話という努力がどれだけ持続された上で経済制裁という方向性が模索されているのかというと、どうしてもやっぱり対話が見えてこないという、そこら辺が私には非常に不安な部分なんですね。
ちょっと三点目の小林先生の質問がよく分からなかったんですけれども、もう一度だけ簡単に、どういう質問だったのか。
○会長(松田岩夫君)
じゃ、小林温君。簡潔に。
○小林温君
日米はなるべく核の問題解決も含めて共同歩調を取っていると思うんですが、我々日本に持たされている制裁のカードというのは少なくとも経済制裁までしかないわけです、その先の軍事的なオプションというのはないわけですから。だから、一方で、アメリカがイラクに大量破壊兵器を持っているかもしれないという理由で攻撃を仕掛けたということを考えると、北朝鮮人権法の制定も含めて、第二期のブッシュ政権というのはその軍事オプションも含めて私は視野に入れてきていると思うんです。
そういう中で、我が日本がマイルドな正に制裁手段、圧力の手段である経済制裁というものを北朝鮮に迫って、それによって北朝鮮が国際社会に対して胸襟を開いて出てくるということというのは、日米との連携あるいは国際社会ということを考えた中では非常に妥当なお互いの交渉の方法じゃないかというふうに私は思うんですが、その辺はいかがですかと。決して強硬策じゃないと。
○参考人(朴一君)
申し訳ございません。
先生のおっしゃるとおりだと思うんですけれども、ただちょっと、私もワシントンに何回も行きまして、それで向こうの国務省の北朝鮮担当官の方とかいろんな関係者に会ってお話をしたんですけれども、北朝鮮の中でもいろいろ、ペンタゴンの考え方と国務省の考え方はかなり温度差があると思うんですけれども、少なくともやっぱり国務省レベルでは、いわゆるピンポイント攻撃というような最悪のシナリオはほとんど想定されていないというようなのが私の実感ですね。
実際問題、北朝鮮が核開発、核をもう所有しているという宣言をしましたけれども、かつての恐らくブッシュ政権ならもっと強い対応がそのとき出たと思うんですけれども、恐らく北朝鮮側は、その核開発をしたということについても極めてブッシュ政権の現在の見方というのは冷静でして、むしろ長期的にどういうふうにその北朝鮮に対して核を凍結あるいは解体させていくのかということで、むしろ一期目のブッシュ政権よりもスタッフは極めて強権派が残ったような気がするんですけれども、北朝鮮に対する対応としては非常に従来よりも穏健的な対応を取ろうとしているというような感じですよね、私の見方は。
だから、北朝鮮がイラクのように、いきなりアメリカがイラクのように軍事介入してくるということはほとんど可能性は低いのではないかと。その中で、問題は、どういうふうにして北朝鮮を六者会議に引き出していき、核を解除させていくのかという方策を練らなきゃいけないということなんですね、重要なことは。そういうことでございます。