[第162回 参議院 国際問題に関する調査会 2005年2月16日]
○小林温君
自民党の小林温でございます。
今日はお二方の参考人から大変貴重なお話をいただきました。台湾、そして日中関係ということでございますが、私、お話を聞いておりまして、日中の関係もあるいは中台の関係も、経済関係が深化をしていく中で政治の関係というのがなかなかそれに結び付かないという同じ環境の中にもあるのかなということを感じたわけでございます。
そういう中で、まず高原先生にお伺いをしたいのは、一つには、先生の御提言の中で香港・マカオと台湾のFTAということがございました。もう既に中国は香港とマカオと、ある意味でいうと一国二制度なのか三制度なのか、現実的にはそういう形があるわけです。ここに仮に台湾が加わるとなると、一国多制度あるいは将来的には連邦制というものも視野に入ってくるような経済関係というものが見えてくるのかなというふうに思います。こういうことが、一つお伺いしたいのは、例えば中国の中ではどういった議論をされているのかということ、それから台湾側から考えた場合、今先生の御提案されているFTAというのはどういうふうに映っているのかということをお聞きをしたいと思います。
それからもう一つ、これは簡単にで結構でございますが、安全保障分野における東アジアの信頼醸成メカニズムということでございますが、この中で中国側は日米安保条約というものをどういうふうにとらえ、この信頼醸成に向かって仮に進むとした中でその日米安保というものをどういうふうに位置付けていくのかと、先生の御見解を教えていただければというふうに思います。
次に、若林先生でございます。
なかなか日本人にとって台湾海峡のリスクというのは目に見えないものでございまして、例えばアメリカの研究者と話をすると、朝鮮半島の軍事的なリスクと台湾海峡のリスクというのはある意味でいうとパラレルに語られるわけですが、そのアメリカ自身のあいまい政策もあって、日本人にはなぜ中台間にそういう軍事的なリスクがあるのかというのが認識できないところがあるんじゃないかというふうに思います。
そこで、先生もお述べになられていますが、その中台の間でも経済的な結び付きというのはかなり深化をしている。私もかつてビジネスの世界におりまして、中国とビジネスをするときに、台湾と中国がまずある分野で合弁なり提携関係を持っているところを、台湾の方、企業なり個人を水先案内人にして中国に入っていくべきだというような話をよく聞いたわけでございますが、こういう、例えば経済関係あるいはその社会、大衆消費文化が緊密化していく中で、下部構造がその上部構造を規定するように、政治関係にこの経済関係の深化が影響を及ぼすということは、現在の時点ではそういうことがあるのかと。それから、これから将来的にそういうことが具体的にどのように考えられるのかということ。
それからもう一つ、これも簡単にで結構でございますが、李登輝訪日の処理は適切だったと先生の御分析ございましたが、あのときも中国側はかなり外交ルートで、あるいはインターネットの書き込みなんかを見ても、日本政府の対応を批判したわけでございますが、こういうことは気にしなくてもいいのかということについてお聞きをできればと思います。
○会長(松田岩夫君)
それでは、高原参考人。
○参考人(高原明生君)
御質問どうもありがとうございます。
最初から順番にお答えを申し上げていきたいんですけれども、実は、そもそも中華人民共和国ができる直前、国民党と内戦を戦っているときに、毛沢東は中国も連邦制の国にしようというふうに最初は言っていたんですね。これはソ連が民族ごとの連邦という形でもうできておりましたので。ところが、もう内戦に勝利することは間違いないということが分かった段階でやめたと言って、やっぱり単一制の国家にするといって今日まで来ているわけであります。けれども、御指摘のとおり、一国家二制度、一国二制度というものが元々は台湾を対象に考えられた政策なんですけれども、実施は御存じのとおり香港それからマカオという地域を対象に行われておりまして、その内容を見ますと、もうほとんど連邦制と同じような内容の仕組みが実はできているというふうに言っていいんじゃないかと思います。それは、もし台湾も一国家二制度という枠組みの下で問題が解決されるという形になれば台湾もそこに加わると。
じゃ、ほかのチベットとか新疆はどうなるんだということで、このまま変わらないのかどうなのか。そういうことにつきましては、一つ注目されますのはやっぱりチベットの動向なんですね。そのチベットのダライ・ラマの側とそれから中国共産党との間の話合いというのが実は進められているプロセスの今最中でありまして、ダライ・ラマはもうかなり高齢になってまいりましたし、チベットについてどういった話合いが付くのかということが長期的に中国の国の在り方ということを考える上では一つの焦点になるんだろうというふうには考えております。
実は一九八九年のいわゆる天安門事件、六・四事件の前には、漢民族が主に住んでいる地域を対象としても、やっぱり連邦制にした方が国家運営の仕方としてやりやすいんじゃないかという、そういう議論はあったんですね。しかし、六・四事件以降、そういう言い方は少なくとも表ではしないようになっています。
なぜかというと、やはり国がばらばらになっていくことに対する本能的な恐怖感といいましょうか、列強によってじゅうりんされ、半植民地化され、国がばらばらになりそうになったという歴史的な記憶というのが染み付いている面がありますので、連邦制を語るということはすなわち中国を弱くしようとするという外国の陰謀に乗ってしまうようなことじゃないかという、それが今のところまだ公式ラインであって、表面的にはそういった議論はできないんですけれども、しかし、実態としてはほかの連邦制の国よりも強い権限を香港やマカオは持っているというのが実際です。しかし、それは植民地だったわけですから、かなり特別なケースだということも言えます。ですから、ポイントはチベットがどうなるかということだというふうに思うんですね。
それから次は、香港・マカオと台湾とのFTAが台湾側から見るとどう映るのかということなんですが、実は意見が割れて、私自身がこれまで聞いた範囲では二つの意見がありますね。
一つは、余り賛成したくないと。それはなぜかというと、香港・マカオとFTAを結ぶことによって、やっぱり大陸に対する経済的な依存が一層深まってしまうということに対する恐怖を抱く指導者たちがいますね。しかし、ビジネス界はそうではなくて、規制をなくしたいという立場でありますので積極的ですし、それから、もしその香港・マカオとのFTAが、例えば日本との間のFTAの交渉に弾みを付けるような、そういう作用を果たすのであるならばいいんじゃないでしょうかというような見方もあるので、それは両方考え方があるというのが今の台湾の状況ではないかと思います。
それから次に、安全保障の問題ですけれども、中国は日本と国交を正常化してから日米安保そのものを批判したことはないと思います。これもよく誤解があるんですけれども、例えば、九〇年代の日米安全保障協力の範囲の拡大とか機能の拡大とか、それに対して批判したことはあるんですけれども、日米安全保障協力体制そのものを批判したことはないと思うんですね。
今の多くの指導者は大変現実主義的に物事を考えられる人たちであって、アメリカのこの地域における軍事的な機能を正しく評価しようと、その安定をもたらす力としてのアメリカのプレゼンスですね、これはこれとして評価すべきだというのが今は主流の考え方だと思います。だからこそ、今年の一月の末だったですけれども、中国とアメリカの間で戦略対話が行われまして、それはバイの戦略対話であったわけですけれども、日米との間でもやりたいというふうに中国側の中には言っている人がいるわけですね。大変現実主義的に考えて、もちろん、さっき私の話の中で申しましたように、ぶつかる面もあるんですけれども、ぶつかる面もあるんだけれども、だけれども話合いでその辺の折り合いは付けていこうという非常にプラグマティックな考え方を今の主流の人たちはしているということだろうと思います。
以上です。
○参考人(若林正丈君)
御質問ありがとうございます。
最初の、中国との経済関係が一種の下部構造にあって上部構造の政治にどう影響するかというお話でございますけれども、大統領選挙の際に、双方、特に野党なんですけれども、野党の方が中国大陸に行っているビジネスマンに候補の後援会を組織するというような行動というものが、昨年度の、〇四年ですね、の選挙には〇〇年よりは大分目立って行われました。また、旧正月等で帰ってくるビジネスマンを集めて、一種の、何ですか、懇親会のようなものを政治家が催すというようなことも、これは与野党両方やったりしております。ただ、そういう選挙目当ての行動がどれだけ選挙の票の導引に結び付いているかということはよく分からないという感じで、まだそれほど効いてはいないという感じであります。お互いに、与野党ともそういう行動を非難し合っているという状況であります。
それから、陳水扁政権と民進党は中国とのオフィシャルな交流というのは非常にうまくいかない状況に、中国がストップしていますので、いっていません。ですから、野党系の政治家やそのシンクタンクの人たちとこれは頻繁に、前からそうですけれども、中国へ行っております。ただ、それが具体的な政治の面でどのように効いているかというのはちょっとなかなかうかがい知ることはできない。余りやり過ぎますと、内部でやはり一方で台湾意識というのは強まっておりますので、批判を受けるとちょっとまずいことにもなるということで、かなりこれは政治家にとってはバランスを取る必要のある事柄になっているという状況でございます。
それからもう一つは、李登輝氏の訪日について中国ではもちろん強い批判があると。これを顧慮しなくていいのかということでございます。これは気にする必要があるというふうに私は思います。
実際に、このたびの訪日につきましても、最初オファーされた時期は断っているわけですね。それからさらに、政治的発言を一切しないという、それから記者会見のようなものもしないということで、強い制限を付けていると。これは十分中国側の反発を顧慮して、我が国として、いわゆる日台の民間関係というものはどういうふうに持つか、行うかという判断とともに一つのバランスの中で行われた決定と、実際の訪日という行動であったというふうに思われますので、やはり中国側の懸念というものにも配慮を示した形でバランスの中で行っていくと。しかし、それは私の評価では、前回の李登輝氏の訪日をああいう形で受け入れた、制限はかなり付けたわけですけれども、受け入れたということは、私の言うその台湾の歴史と民主化に対する敬意の表明という意味ではいい事例だったのではないかというふうに考える次第です。