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国会発言録

[第159回 参議院 国際問題に関する調査会 2004年2月9日]

○小林温君

 三名の参考人の皆さん、今日は本当にありがとうございました。

 それぞれの御発言の中でも触れられているところもあるんですが、一つに農業の問題についてお三方の意見をお伺いしたいんですが、田中参考人からは、自民党の政策決定、政府の政策決定、いろんな問題があるということを御指摘もいただいております。自民党の中にもFTAの特命委員会というのも設けまして、その縦割りをどう解消していくか、あるいはスピード感をどう持って政策決定していくかということについて、特にこのFTAの部分で今鋭意努力もしているところなんですが、その中で、私も参加をさせていただいておりまして、特に農業の問題については一つの解決策として、当然、多面的機能をどう評価していくかということに加えて、直接支払も含めた所得補償というものが現実的な処方せんとして議論の中にも見受けられるようになってまいりました。

 ただ、この手法を採用するのにはまず政治的なハードルがある。それから、財政面でのハードルも当然ありますし、と同時に、ある意味では税金を一つの産業に投入するということにもなりますので、国民的な理解がどれだけ得られるかという部分まで勘案した上でこういう政策決定をしていかなければいけないというふうに思うんですが、一つの処方せんとしては、これは前に進んでいるんじゃないかと私自身は評価しているところで、この点について、まず山田参考人からは、農業にかかわる皆さん方からこの直接支払というものがどういうふうに映っているか、その可能性についても言及をいただければと。

 それから、大川参考人からは、産業界から見た場合にこのシナリオというものについてどういう御評価をいただけるかと。

 そして、田中参考人からは、政治経済学的にアプローチした場合に、この具体的な一つの処方せんについてどういう御意見をお持ちかということをお伺いしたい。

 それからもう一点、これは大川参考人と田中参考人に少しお伺いをしたいと思うんですが、中国と日本が、特にASEANを含めた東南アジアでFTA、どちらが主導権を握るかという、今そういう競合もあるわけですが、これは決してスピードだけの問題じゃなくて、でき上がった経済連携の質が将来どうあるべきかということにも私はかかわってくるというふうに思っています。

 つまり、やはり中国とASEANとのFTAというのはどこまでいっても発展途上国間の経済連携であって、関税撤廃をやはり基本として、余り質が高いものにはなり得ないんじゃないかと。それを考えると、日本としては将来的に質の高い東アジア全体の経済連携を目標に置き、かつ中国にもビジネス環境の整備をこれは迫っていかなければならないという意味において、最初から質の高いFTAを日本が主導するということが東アジア全体での経済連携の質を高めていくということにつながるんだろうというふうに思うんですが、こういう考え方の下に、いろんなリスクを負ってまで日本政府が更に積極的に東南アジアへのアプローチを対中国もにらんだ上で進めていくことの意義について御意見があればお伺いをしたいと思います。

○参考人(山田俊男君)

 小林先生からのお話であります。直接支払につきましてどう受け止めるかというお話でありまして、直接支払の重要性は、もう担い手をどうつくるかということからしても何としてでも必要だという考えでおります。とりわけFTAやWTOがあるから直接支払をやるというわけではないわけでありますが、しかし、それにしましても、高関税を前提にして、かつ国内の高い価格を維持する制度運営になっておるわけでありますから、FTAやその他で関税が下がってくれば、当然国内のその制度の維持はできないわけであります。そういう面では、何としてもそういう作物生産を行っている農業者に対する手だてが必要というふうに考えるわけであります。

 しかし、その場合、先生の御指摘もありましたけれども、政治的、財政的な問題あるぞというお話であります。担い手のすべてに対して一定の直接支払をやるという話はなかなか通らないということで、今回の農林水産省におきます大臣の一つの提案の中におきましても、一定の高いハードルが必要だというふうに言って、担い手はそれなりに限定的だということがあるわけであります。

 しかし、一体、それでは高いハードルから除かれた、除外された農家の対策はどうするんだということでありまして、我が国の実態からしましても、そうした農業者がそれなりに、やはり集落におきまして地域の環境保全や、それから水路や農道の改修等も含めまして、それから農業の補助的な役割、これは田名部先生からも先ほどありましたが、兼業で得た所得の大部分を機械に費やしてでも、しかし米を植えているという事実も現にあるわけでありまして、そういう形の中で地域の農業が維持されているという部分があるわけでありますから、そういたしますと、そういう一定の地域農業を守る担い手、これは存在しますよと。これは直接支払の所得補てんがあります。

 一方、その一方で、その担い手を育成する育成段階の農業者、それからそこに行き着かない農業者に対しましても一定の環境等対策、これは集落等の対策などの、例えば中山間地直接支払が今実施されていまして、それなりに、耕作放棄地の対策も含めた取組はそれなりに進んでいるということ等の経験を十分踏まえた上で、環境維持等の支払対策も並行して作っていただくという検討が必要ではないかというふうに考えているところであります。

○参考人(大川三千男君)

 今のところが、私は農業問題、もちろん専門ではないんであれですけれども、一番非常に基本的なところで、そういう問題が非常にしっかりと、特に直接支払とかそういうことが議論されるようになってきたということがやっぱり非常に大事なことではないかと思います。

 私が産業の立場あるいは製造業の立場から見ましてやっぱり農業に対して非常に思いますのは、やはり我々工場で物を作る立場でいきますと、先ほどから海外展開、グローバルな展開をしていると申し上げましたように、どうしても日本の中で競争力のない事業あるいはその業種、それはしかしアジアへ持っていってやれば十分に自分たちの技術も生かせると、そういうような一つの最適の経営資源を求めて海外で生産をする、そして日本と現地の工場等いろんなマーケットに応じてグローバルなオペレーションをすると、こういうことはできるわけでございます。  

 それから、工場で物を作る以上、割合その生産条件とかそういうことはそれなりに安定したものが得られるわけでありますけれども、農業の場合には、特に水田農業というようなことになりますと海外へ行くというわけにはいかない。それについてもまたいろいろな工夫の仕方があるのかもしれませんけれども、あるいはいろんな耕地の広さの制約とか、自分たちでどうしようもない一つの制約条件ということに対して、いろいろなやはり配慮とか補助とか、そういうことが産業として、先ほど農としての、加納先生おっしゃられたこととか、産業としての農ということがありますが、産業としての農業ということを考えた場合には、そういうようないろいろな違いということに対してはやっぱり十分な手当てということがなされなければいけないんじゃないかなと。

 我々もやはり海外との競争というようなことになりますと、自分たちでどうしようもない要因で来たときのやっぱり競争力の格差ということが非常にあるわけでありますが、それをどう受け止めてどういうふうにやるかということに対してはいろんな対応の仕方がありますけれども、農業の場合にはそこでのやっぱり制約がいろいろあるとすれば、そういうしっかりとした一つの、特にやはり直接支払というような形での産業としての持っていき方はあると思いますし、またFTAの実行というような面においてはやっぱり時間的にもいろいろな形での対策が要ると思いますが、いずれにせよ、やはりそういう一つの構造改革的なことをしっかりと進めていかなければいけないということは確かではないかというふうに思います。

 それから、小林先生、もう一つ、そうですね、質の話がございました。

 おっしゃるように、先ほどからもありますように、授権条項があることで結ばれるFTAと、日本と例えばASEAN、タイとの間のことがありますと、これはやはり別にそれでスピードが遅くなっていいというわけではありませんけれども、やはりレベルの高い地域協定、せっかく、もちろん農業の問題は、それが除外されているということがありましたが、シンガポールとの間の協定ということでは一つの実例もできているわけであります。

 それをさらに踏まえながら、例えばタイとの場合には、農産品の問題も組み入れた形でレベルの高い一つのことを目指してやっていくということはやっぱり一つの日本としての大事な立場だろうと思いますが、それだから時間が掛かっていいということではなくて、やっぱり今の場合のスピードということも非常に重要であろうと思います。

○参考人(田中明彦君)

 最初の質問で所得補償の件ですけれども、私はこの件は原則として日本としてのネットベネフィット、純益がどうなっているかということを考えるべきだと思います。そして、FTAということから考えたときに、日本の産業その他が、例えばタイなりあるいはそれ以外のASEAN諸国との間で自由貿易をやった場合に得られる利益をかんがみたときに、ある日本の農業の一分野に対して所得補償をすることが日本全体としてどのぐらいの得になっているかということだと思うんです。

 それで、私の、何というんでしょうか、正確な計算はしたことございませんけれども、私の大まかに見るところでは、現在対象となっているような特定品種について所得補償をしても、FTAを短期に実現することによって得られる利益の方が日本にとってははるかに大きいというふうに私は思います。ですから、今、先生がおっしゃったような処方せんというのは私は十分考えられるし、誠に現実的なものだろうと思っております。

 ただ、そこに条件を付けるとすれば、何でもかんでも所得補償だということになると、これはややモラルハザードのようなものがございますから、やはりそこには時限とか条件を付けて、構造改革が進むというそういう枠内で所得補償をしていくのだという形であれば、これは多くの国民にとっても納得がいくことじゃないかというふうに思っております。

 それから二番目の、日本がFTAの主導権を取ることによって東アジア地域の自由貿易の質が高まるということは、私はそのとおりだろうと思っております。FTAの問題、とりわけ二国間FTAの問題は、それぞれの国々がそれぞれの枠組みで個々別々のFTAをそこらじゅうで結び合った結果、お互いに整合性が全く取れず、かえって原産地証明だとかその他のいろいろな問題で非効率が高まってしまうという問題がございます。

 望ましいのは、二国間のFTAを作っていっても、最終的には非常に大きなところで枠組みが共通してあって、東アジア全体が自由になるということ、これが一番重要なわけですね。その面でいいますと、中国とASEANのイニシアチブのままでやっていくというのは東アジア全体にとってみるとそれほど質が高くもならない、あるいは今ASEANの自由貿易というのでAFTAというのがございますけれども、これもほっておくと余り質の高いものにならないということがあります。

 日本にとってみれば、日本と相手国の二国間の貿易が、その自由化が高まるということもとても重要ですけれども、多くの日本企業にとってみると、東アジア諸国間の間の相互の障壁がどんどん低下してくれるということのメリットというのも、これは忘れるわけにはいかないわけですね。ですから、今の日本のシンガポールと結んだEPAの枠組みというのは、私の見るところ大変包括的によくできていると思いますので、このような枠組みでもって様々なところと日本がイニシアチブを取って結んでいくことによって、最終的には相手国同士の枠組みもそれに近づけてもらうということ、それによって全体の東アジアの自由貿易を強めるということができるということですから、正に日本が今そのような形で主導権を取るということが東アジア全体にとっても役に立つことであろうと私は思います。