[第156回 参議院 国際問題に関する調査会 2003年2月12日]
○小林温君
自民党の小林温でございます。
お二人の参考人には、本日は大変貴重な御意見をちょうだいいたしまして、誠にありがとうございました。
まず、関参考人に少しお伺いしたいんですが、私自身も中国脅威論には必ずしもくみしない立場でございます。そういう意味では、参考人のおっしゃった競合よりも補完的な関係というのが日中にあるんだと、こういう御意見もある意味ではもっともなものだというふうにも思うわけでございますが。
ただ、私自身も年に何度か中国にお邪魔をさせていただいて、特に大都市部に行きますと、例えばここで数字を挙げられております四十年間の日本と中国の間のタイムラグがあると、あるいはこれを二十年、二十五年と言う方もいらっしゃるわけですが、特に大都市に行ったときにはそういう差はほとんど関係ないんですね。例えば上海の浦東地区等をお邪魔したときには、もうこれはもしかするとあしたにでも日本は抜かれてしまうんじゃないかという気もするわけです。
これは、例えば非常に抽象的な言い方をすると、中国のエネルギーを現地に行って感じることが、あるいは、中国で例えばいろんな方々とお会いすると、個人個人のエネルギーも含めて国としてのエネルギーを非常に感じる。その辺が、中国のプレゼンスが現実よりも大きくとらえられて中国脅威論というものを拡大されている雰囲気があるんじゃないかと、こう私自身思うわけでございます。
この雰囲気に、やはり、これは少徳参考人の方からもお話がありましたが、グローバル戦略の中で、じゃ対中戦略をどうするかというしっかりとした明確な指針を持たない企業もこの雰囲気に引っ張られる形で余り戦略的じゃない進出をしてしまったりするようなことも実はあるんじゃないかなと。これは過去の、この十数年の対中進出の成功例が余り見られないというところにもあるのかなとも思うわけですが、この辺のところを率直に、多分、関参考人のお立場というのは、この現実とある意味では雰囲気の問題を、ギャップを埋めていただけるというお仕事をいつもしていただいているんだろうと思うんですが、その辺についてもう少し詳しい御意見をいただければと思うのと、あともう一つは、自動車を一つ現実的な例として、投資の際の悪い投資の例として挙げられているんですが、ちょっと自動車というのは特殊だと思うんですね。これは、物が大きいということもありますし、それからアーキテクチャーでいってもかなり物づくりが必要な部分もある、長い経験も必要な部分もある分野だということで、ここの部分で、じゃ中国に直接行くことがどうなのかという意見はあると思うんですが、例えばハイテクの分野においては、その点について、例えば現地に出ていって現地生産するということが参考人から見たときにどういうふうに映っているのかということについて御意見をいただければと思います。
それから、少徳参考人にお伺いしたいのは、私、マレーシアの松下電器の下請工場で三か月間、工場労働をしたことがありまして、松下政経塾におったときにそういうプログラムがありまして、参考人にもそのとき少しお会いをさせていただいたことが実はあるわけでございます。
それとは別に、例えばマレーシアを見ると、ルックイーストもあって日本企業の進出が非常にうまくいった例だと思うんですね。これを、中国を今見たときに、例えば華人ネットワークの中に日本が入っていくというのが大変困難であると。これは、中国だけに限らずグレーターチャイナに入ることの難しさということがある。
例えば、アメリカと日本を比べますと、中国の外資の合弁企業のトップに、中国出身で例えばアメリカから帰化された方とか、戻ってこられた方とか、アメリカでPhDを取られてきた方なんかが就く例があるわけで、そうすると、血のつながり、あるいはそういったものでどうしてもいろんな契約等がアメリカの企業に流れてしまうというようなことも言われていると思うんですが。
一例を、例えば現実的な例で言うと、その辺も御説明いただければと思うんですが、携帯電話のシェアが中国で、これは世代の問題も、標準の問題もあるんですが、まだまだ欧米に比べてシェアを獲得するに至っていないということとか、あるいは、例えば一部のハイテク機器の中でも、アメリカは中に入り込んでしまっているのに日本はなかなか入れないというところもあるわけですが、この辺の、ある意味で言うと一つの非関税障壁の人的ネットワークの問題、日本というのは本当に中国の中に入り込むことが可能なのかどうかということについて少し御意見を賜れればというふうに思います。
○参考人(関志雄君)
まず、私が実態に沿った形で申し上げた数字と皆さんの頭の中で描いている中国の間にはまだギャップが大きいんじゃないかという質問に関して。
一つは、時系列で追ってみますと、九七、八年辺りから約三、四年間、日本のマスコミを読む限り、中国という国はほとんど存在しなかったと。存在するとしたら、人民元の切下げがあるのか、不良債権の問題はどうなるのか、正に悲観色ばっかりでした。しかし、いつの間にか、世界経済が低迷している中で一種の中国の独り勝ちという状況が確認すると、今度はマスコミの論調が正反対に走ったと。久しぶりに数年ぶりに中国に訪問すると、非常に変わったというときに、ひょっとしたらこの変化が一夜明けたら起こった変化だという感じを受けるんですね。
中国の経済改革は、繰り返しになると思いますが、一九七八年から始まって二十五年間たっているんですね。中国自身もこの経済改革は漸進的改革という、ロシアみたいなビッグバン方式ではなく、一歩一歩前進しているという形で進んできて、実際成長率を追ってみたら、九七年辺りを境目にむしろ中国の成長率は下がってきたんですね。それまでの一〇%近いところから、今は元気なときは八%、元気ないときは六%前後という形で下がってきて、客観的にとらえると、むしろ中国の高度成長期が少し元気がなくなってきているという印象さえ受けるんです。それは、時系列を追ってみるとこういう結論になります。
もう一つは、地域で見ると、皆さん中国に訪問するときには、上海、北京、場合によっては華南地域、いわゆる中国の最も進んでいる地域以外はほとんど行かないんですね。世界工場といいながら、中国は実は人口の七〇%はまだ農村部に住んでいる農業大国なんですね、工業大国の前に。それは皆さん忘れていると。
よくこういう質問をいただくんですが、内陸部とかは農業部門はいいから、中国は十三億人で、一番進んでいる一〇%だけ日本と比較したらもうとんとんまで来ているんじゃないかという話あるんですね。私も実際計算してみましたが、中国の一番進んでいる一〇%の地域の一人当たりGDPは、いまだ二千ドルです。全国平均は千ドル前後なんですが、一番進んでいる一億三千万人は二千ドルです。
その次に出てくる質問は、購買力平価が違うんじゃないかと。人民元が割安になって、二千ドルとまた実感と非常にギャップ大きいんですよと。その分も修正して、国全体で修正すると、大体中国のGDPが、生の数字と比べたらPPPの方が五倍近く大きくなります。そのまま修正しますと二千ドルじゃなく一万前後ぐらいまで、一番進んでいる一〇%の人口の話なんですが、に来ているのかなという気がします。日本はもう三万ドル以上ですので、それと比べてもまだ沿海地域は頑張って、新興工業国、NIEぐらいのレベルなのかなという気がします。
その元気さの秘訣は何ですかといったら、さっき少徳さんも少し触れましたように、やはり中国は看板だけは社会主義で、やっているのは徹底した市場経済であるというところを認識すべきじゃないのかなと。中国は、自称社会主義市場経済若しくは社会主義の初期段階と言っているんですね。本音ベースで言うと、これは社会主義の初期段階ではなく、どう見ても資本主義の初期段階と理解した方が分かりやすいじゃないかと思います。
マルクス経済学で言う原始資本主義なんですね。労働者階級と資本家階級が今同時に創出され、所得分配も二極化する段階にあります。皆さんが一番見ているのが進んでいるところばっかりなんですが、ただ、初期資本主義といっても日本みたいに成熟した資本主義、一応看板はそうなっているんですが、との間にはまだギャップあるんですね。何が足りないかといったら、成熟した資本主義にはまず人治社会ではなく、法治社会でなければならない。
次に、資本主義である以上、国有企業を中心とする公有制ではなく、私有財産を保護しなければならない。それもまだ中国はそこまで至っていないんですね。弱者も保護しなければならないんですね。いわゆる社会保障制度の確立もしなければならない。その辺りに関しては、まだ中国はいろいろやらなければならないところがたくさんあるんじゃないかと思います。
産業の話に関して、自動車は特殊じゃないかと。ある意味は特殊です。特殊だからこそ日本の国内で残してもやっていけると思います。家電の場合はいわゆるモジュール化した産業でして、部品さえ調達したらどこでもやっていけるんですが、車の場合はある程度の集積効果が必要でして、中国はまだそういう段階には至っていない。
アジアの国々全体で見ても、それぞれの国はみんな国民車を作ろうという計画を立てて、日本以外にある程度成功しているのは実はまだ韓国しかないんですね。中国はマーケットが大きいですので、成功する確率はほかのところと比べたら高いんですが、今のレベルではまだ全然日本には勝てないと。実際、同じ自動車の価格を比較しますと、いまだ中国の方が日本と比べたら倍ぐらいの値段が付いているということを考えれば分かるように、国際競争力を持つにはまだまだ先のことじゃないのかなと思います。
中国の産業は、明日でも日本を抜くということは、従来のいわゆる雁行形態とは別のものでして、雁行形態というのは正に一歩一歩前進して、日本は古い産業を切り捨てながら、もう一方では新しい産業を育てると。古い産業は新興工業国、次から来る国にとってはまた新しい産業として生まれ変わってくるというプロセスは戦後アジア全体でやってきて、地域全体の活力を維持するには非常に役に立ったと。
これは崩れたという議論は二年前の通商白書にはそういう記述がありまして、私は個人的には必ずしも賛成してはいないんですが、その代わりに出てきた議論は、いわゆるカエル跳びの議論ですね。
中国は二年前まではデジタルデバイドという話があって、中国みたいな途上国はいつまでも付いていけないからどんどん南北格差が広がってくるんじゃないかと心配して、日本が九州・沖縄サミットのときにデジタルデバイドという概念を提唱し、何とか助けてあげようかという話でした。しかし、今はその正反対で、中国はIT技術を生かして、それをてこにいきなり先進国になるんだという正反対の話に変わるんですね。
中国経済が本当にカエル跳びができるのかといったら、私は非常に慎重な見方を持っています。実際、中国は五〇年代の大躍進も一つのカエル跳びの試みでしたし、七〇年代、トウ小平が復活する前に華国鋒主席の下で洋躍進運動が行われました。海外から一番進んでいるプラントを導入して、結局それも生かされなかったと。つまり、中国はこれまで二回にわたってカエル跳びを試みてみましたが、いずれも見事に失敗したという経験から、本当にハイテクであるほどいいのかということを考えると、慎重にならざるを得ません。
ハイテクであるほどいいという概念は、恐らく日本みたいな先進国の場合に関しては当てはまるんですが、発展途上国の中国にとっては有害無益なんですね。みんなハイテクに走らないと明日はないですよと、国としても企業としてもというんですが、ハイテクでもうかるんですか。中国は、ハイテクに関しては、一部はあっても全体的に見たら全然まだ比較優位を持っていません。無理してやると借金だけは残ると。
なぜ韓国はアジア通貨危機に見舞われたかという一つの原因は、ああいう財閥系企業は、無理して自分の力に合わずに宇宙開発までやってしまうと。その場合は、赤字だけ残って、債務だけ残って経済危機を招いたという経緯もあると。
中国はやはり一歩一歩前進して、従来の雁行形態の発想で進めていくしかないじゃないのかなと。一点豪華主義でやろうと思ったら、例えばロケットを飛ばして、その精度は日本よりもいいんじゃないかと言われるんですが、幾らコスト掛かったのかという発想は必要になってくるんですね。同じ大金を使ってもっと中国の国民を幸せにさせる方法はないのか。
今の更に現実の問題として、北京と上海の間に新幹線を造ろうという話になっています。日本の技術を使うのか、ドイツの技術を使うのかというときに、一部の指導者がハイテクであるほどいいという発想で、ドイツのがいいと言っているんですね。コストが高くて安全性も確認されていないにもかかわらずのことです。
私は、ドイツがいいというか、日本の技術がいいと言う前に、千四百キロにもわたるこの長い距離で新幹線で採算性取れるのかという心配は私は持っています。大阪と東京の間くらいで三時間なら乗りますけれども、それ以上は普通はもう飛行機に代わります。同じように、千四百キロで新幹線を造ってしまえば、できた段階では日本の青函トンネル、若しくは本州四国大橋みたいな運命にならないのかという心配もあります。だから、国の使えるお金が中国はまだまだ発展途上国ですので、日本ほど豊かではない。このお金を、その資金をもっと大事にして、有効に運用しないと非常に困るんだなと私は思っています。
○参考人(少徳敬雄君)
小林先生、私も一九八七年から九三年までマレーシアにおりまして、マレーシアでエアコンとか、エアコン用コンプレッサーとかモーターを作る会社の社長をしておったんですけれども、御指摘のとおり、マレーシアはルック・イースト・ポリシーがありまして、非常に親日的な国でありますし、それから私の経験では恐らく世界じゅうで最も親日的な国で、この国に嫌われたら、あとでは好かれる国がないんじゃないかなと思うぐらいに非常にいい国だったと思っております。
華人ネットワークの話でございますけれども、確かに欧米系の会社は、アメリカで生まれた例えば中国人、また東南アジアで使った経営者、これを中国シフトして、中国で社長として、経営責任者として仕事をしてもらって、そしてその人が新しくインサイダー化してネットワークを作っていくと、こういう形で非常に成功されている企業があります。モトローラがしかりだと思いますけれども。
日本の大会社は、この点がまだ非常に後れておりまして、結局、例えば台湾とか東南アジアで優れた自社の子会社の経営者を思い切って中国の会社の経営者に登用するというケースは、大会社では私の知る範囲では余りないんであります。中小企業の中国事業展開の場合は、例えば台湾とか香港とか、こういったものを人材を思い切って中国での事業の責任者に登用するということはやっていらっしゃって、成功されている会社も随分あると思うんでありますが、私どもの方もこの面では、先生おっしゃったとおり、大変後れておりますが、間もなく、四十二社ほどあるわけですけれども、二、三の会社から現地で採用して現地で育てた人を総経理、社長にできるんじゃないかなと。十年たってまいりますと、そういう会社が出てこないかぬかなと思っております。
それから、携帯電話が成功していない。これは、他メーカーの方の、同業他社のことを申し上げるわけにいきませんので、当社のことを申し上げますと、やはりNTTドコモさんの、日本にぴったりくっ付いて仕事をさせていただいておったから、グローバルで非常に強い実力を持っていなかったと。日本、NTTドコモさんがおっしゃるとおりに作って、薄く、軽く、安く、魅力的なデザインと、こういうようにしていけばよかったんでありますが、世の中の流れが、ヨーロッパのGSM方式とアメリカのTDMA方式とか、こういったものが出てまいりまして、それと特許でクロスライセンスできないから、ヨーロッパに売るもの、中国に売るもの、これはGSMの携帯通信方式なんですが、かなりの部分の特許使用料、売上げに対して五から一〇ぐらい払っていると。もうちょっと払っているかも分かりません。
これは、ハンディを背負ってやっているわけで、モトローラがアメリカ方式で、シーメンス、ノキアがヨーロッパ方式なんですが、相互に特許をクロスしていますから特許料の負担がコストの中に入っていないんですよ。日本は、日本だけでしか使えない携帯電話のシステムをやってまいりましたから、結局、アメリカで売る場合もヨーロッパで売る場合も中国で売る場合もかなりの特許料の負担になっておって、そして展開が後れておると。第三世代でワイドバンドCDMA、これを欧州と日本が共同の方式を採用し、中国でもこれも一つのフォーマットとして採用してくると思いますので、ここら辺りでしっかり捲土重来というところかなと思います。
ハイテクが中国に入り切れていないんじゃないかと。
一般的に言えば、労働集約的な部門を中国にシフトし、またアジアから高度に労働集約的なものを中国にシフトしていますが、非常に付加価値の高い基幹部品、デバイスと言っておりますけれども、先ほど関先生がおっしゃいましたスマイルカーブの左手のところでありますが、ここに特許、知財、ブラックボックス化したもの、まねができないもの、ばらしても再組立てができないもの、こういったノウハウを持って、ここで、日本で作ってそれを中国へ輸出して、中国がそれを使って完成品を国内向け、輸出向けにやるという形で、できるだけこれは残しておきたいという、社内でブラックボックス化した技術と言っておりますけれども、これを何とか残しておきたいと。
ただ、これも非常に高度に装置産業でありまして、組立ての部分を中国へシフトした余剰人員を吸収できるほどこっちのデバイス、ハイテク部品ではできないんで、ここが非常に悩ましいところなんでありますけれども、しかし、収益という面ではここをしっかり残しておくという意味で、日本のメーカーのこの分野への中国展開が入り切れていないというお話でございましたが、ある程度は意図した戦略かなと思うんでありますが。しかし、中国側が、日本はローテクしか持ってこない、持ってこないと言って非常にいろんなところで批判をしますので、これは先ほどの関先生のお話ですと悪い投資になるのか分かりませんけれども、プラズマディスプレーパネル、PDPを上海で前工程から後ろ工程までいよいよ生産を今年の中ごろからいたしますので、こういった形で中国にもある程度ハイテク持っていっていますというあかしを示しておるというところですが、投資に対して、リターンという意味では悪い投資かなという心配はしています。
以上であります。